一般財団法人ファインセラミックスセンター(JFCC)主任研究員の小林俊介氏他の論文が「ACS Nano」に掲載されました。
概要:
水素社会実現へ向け、酸素と水素の反応を電気に変える固体高分子形燃料電池を使った電気自動車が実用化され、今後、さらなる普及が望まれています。固体高分子形燃料電池では電気を取り出す際に水が出るだけの環境に優しい電池です。一方、酸素と水素を効率よく反応させるためには高価なプラチナを触媒に用いる必要があります。プラチナの使用量を少なくするため他の金属と混合したプラチナ合金粒子の開発が行われてきました。そして、プラチナとコバルトが周期的に並んだ合金をプラチナで薄く覆うと非常に優れた触媒性能を示すことが知られています。一方、なぜ触媒性能が向上するのかは明確には分かっていませんでした。
本研究では酸素と水素の反応が粒子表面で行われることに着目しました。走査透過電子顕微鏡法という原子の並びを見ることができる方法を独自に発展させ、表面原子の並びをピコメートル精度で計測する手法を確立し観察を行いました。1ピコメートルは1ナノメートルの千分の一、つまり0.001ナノメートル(0.000000000001メートル)と非常に小さな値です。この計測手法により、プラチナとコバルトが周期的に並んだ合金の表面では、プラチナが均等に並んでいるのではなく、プラチナ同士が非対称な結びつきで並んでいることが分かりました。このプラチナの並びを理論計算によりシミュレーションすると、酸素と水素の反応に適した原子の並びであることが分かりました。わずかな原子の並びの変化が触媒性能に大きく影響を与えることを直接観察と理論計算から明らかにすることに成功しました。
この成果をもとに、水素社会実現へ向け、表面をピコメートルスケールで制御した新たな触媒の開発へつながることが期待されます。
本成果は、2025年1月16日(US時間)に米国化学学会「ACS Nano」に掲載されました。
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